2011年11月8日火曜日

和の音いろ -紀尾井ホールにて

富士喜会 和の音いろ  






このたび、富士喜会では会員とともに、「和の音いろ」演奏会を
開催させていただく運びとなりました。
それもひとえに、常に変わらぬ皆々様のご厚誼と、
ご助力くださいます諸先生方のおかげと心より感謝しております。
この感謝の気持ちとともに、
ここへ至るまでの富士喜会の活動の歩みを振り返り
出演者一人ひとりが、一音一音大切に気持ちをこめて
演奏させていただきます。
当日舞台に上がっていない会員一同も同じ心で
こらからも、「和」を以って精進していく所存です。
どうぞ今後ともよろしく
ご指導、ご支援賜りますようにお願い申し上げます。

プログラム 5曲

一 【八千代獅子】 
   
江戸中期・三絃の技巧の始まり
三絃という楽器が広まってきますと、
その技巧を聞かせるための曲が多く作られるようになりました。
中でも、「○○獅子」と曲のタイトルについております、
「獅子物」というジャンルが流行っていきました。 
この八千代獅子は、「ずっと幾年にも続いていくー八千代」を祝う獅子舞の曲です。
この曲は、琴古流尺八 宗家竹友社創立百周年記念演奏にて、
富士喜会が演奏いたしました思い出の曲でございます。

元々は、「朝顔獅子」という尺八の曲だったのを、
政島検校が胡弓に移曲。
それを、藤永検校が三絃に移したことにより広まったとされる曲です。
 
今回は、前唄の箇所からではなく、大鼓と小鼓の響きから始まり、
リズミカルな手事へと続いて演奏してまいります。

二 【稚児桜】  

明治新曲
菊武祥庭が明治四十四年に、当時の小学校の教科書の文章にヒントを得て、
作曲いたしました。
鞍馬の稚児(寺院などで召し使われる児童)であった牛若丸が成人して
義経となるまでの話は、昔から人気がありました。

歌詞となっております文章には、牛若丸と弁慶の運命の出会いを中心に書かれています。
   
牛若丸は、昼は仏典を読み学問に励み、夜は武芸に磨きをかけ、
夜毎に源氏の再興を天満宮に祈願していました。
そして、ある夜のこと、牛若丸が弁慶と五条橋で出会い、
太刀をもらいたいという弁慶に、牛若丸が「太刀が欲しくば寄りて取れ」と答え、
その立ち回りの様子を見事に箏で表現しています。
立ち回りの場面では、「地」という、同じパターンを繰り返す奏法で弾く箏が入ります 。
左手と右手で「ツルシャン、ツルシャン…」 と繰り返されるのですが、
その軽やかな音色は、五条橋の欄干を「ひらりひらり」と
跳び歩く牛若丸の様子を表しています。


三  【乱輪舌(みだれりんぜつ】  
    
江戸・筝曲の始まり
長年にわたり、古曲の代表作で人気のあります、
「六段の調」と同じ「八橋検校」が一七世紀に作曲したとされておりました。
近年の論文の中で、「六段の調」と同様に
キリシタン音楽を移曲したのではないか?という説もございますので、
「伝 八橋検校作曲」といたします。
十段の調べともいいます。
輪舌とは、走っている車の両輪の本奉の間に出来る 空間の形の事をいいます。
調子の変化が無限に変化する様子が 丁度ダイヤモンドの屈折をみるようで、
日本語では その様に無限に変化して数え切れないものを称して
乱という言葉で表現します。              (井上 江雲 解説) 
 
 
四  【夕 顔】  

江戸後期
「夕顔が綺麗に咲いた侘しい家があり、そこで ふと見かけた女に、
十七歳の源氏は心惹かれる様になり、源氏が近くの別荘に女を連れ出し、
夜に就寝していたところ、物の怪が現れて…」 
これが、曲の題材となっております、源氏物語・巻四の「夕顔」の情景です。      
歌詞では、源氏がとても美しい夕顔を見初めた様子を中心に描かれております。

当時の人が、皆が知っている物語を題材にした曲を作る場合、
この夕顔もそうなのですが、
物語の筋を、なぞるのではなくて、歌詞を
詩的に表現したものとなっているのです。

たとえば
「白露、光を添えて」とあるのですが、

それは、
夕顔が詠んだ
「心あてに それかぞとみる 白露の 光そへたる夕顔の花」

を表していて、
当時(江戸時代)の人々にとっては、
源氏物語の「夕顔」の巻も、物語の中の夕顔が詠んだ歌も
よく知られているものだったようです。

下に載せました夕顔の場面は
源氏が咲いている夕顔がほしいと言って、
家来に取りにやらせて、
「夕顔」の邸の者が、扇子に夕顔を乗せて、
源氏の家来に渡す場面です。


 今回、この「夕顔」
琴古流尺八 江雲会宗家の井上江雲先生が好きでした曲の一つでございまして、
情緒豊かで美しく、優しい感じのする曲です。
短い曲で、弾き易い様にみえることから、箏や三絃を始めた方が、
早い段階で習う曲なのですが、曲の深い趣を表現するのには、
大変難しい曲でございます。

箏と三絃と尺八とで合奏する三曲合奏の形式で
演奏されることが多い曲ですが、今回は、三絃と尺八とで合奏いたします。 


 

五  【富 士】  

昭和の曲
大月宗明先生が、昭和四十六年に作曲いたしました。
我々「富士喜会」のテーマ曲として、演奏会毎に寄せている曲でございます。
箏本手・替手、三絃、十七絃、太鼓、尺八 と多くの楽器を用いての合奏曲です。
   
どの楽器が飛び出て聞こえることもなく、調和し、
華やかですが安定していて、壮大な感を受けるその構成は、
「富士」のありのままの姿を感じさせます。

作曲者の大月宗明先生の承諾をいただきまして、
一部分を抜粋させていただき、また、原曲よりも、緩やかな部分も多く、
「富士喜会流」で演奏いたします。

2011年11月13日 日曜日 紀尾井ホール 14時開場 14時半開演 
3,000円

平安時代 源氏物語絵巻より「御法」の場面
(ニ玄社 原色かな手本より)


近世初頭 土佐光吉筆 「夕顔」の場面
(小学館日本の古典より)