2010年10月11日月曜日

⑦お箏の絃のお話

 お琴の弦(糸)のお話です。
お琴は、桐でできた楽器本体に糸をかけて使います。
そしてその糸は、本来、
絹糸を撚り合わせたものなのです♪















↑竜尾の糸巻き
絃(胃とが一本だけ切れたり、
全部張り直して替えるときに、
天地替えといって、この部分をまずは使います
次の張替えの時は、
全部取り替えます。

本来の絹の糸の場合
爪に当てた感触、音色も素晴らしく、琴柱も倒れにくいのですが、

一週間もすると音色が悪くなっていまうし、
温度変化に大変敏感なので切れやすくなってしまうのです


近年は、
よい音色が出るように、と工夫されたナイロンやテトロンなどの
合成繊維のものが普及しています。

演奏会のみにと、絹の音色を求めてかける方も
まだまだいらっしゃるとのこと。

三絃(三味線)では、常日頃、絹糸の弦で弾いておりますが、
何回か弾いているうちに音色が大層悪くなり切れやすく
消耗しやすいです。






さて
本来の琴糸の素材である絹の琴糸は
実は、昔も今も、ほとんどが琵琶湖周辺で生産されているのです!
(三味線糸もです)
















なかでも、
滋賀県伊香郡木之本町大音→通称「大音糸」が
最も歴史あるものとされています。

大音糸は、
滋賀県伊香郡の祖神である、伊香津臣命(いかつのみこと)の
16代目伊香厚行(いかごのあつゆき)が始めたと伝えられます☆

菅原道真と同時代のこの方。
任ぜられて、京都にて神社行政に当たっていました。


伊香具神社の境内にある
池の清水を引いて繭を煮て糸を造ると大変上質な糸ができたのです♪

これを京都に持っていき、
(ご献上したりも)
装束の紐や楽器糸を作り、全国に広まったとのこと。


そして、
今でも、撚り上げる強さ、糊で煮込む時間の長さは、
秘伝とされていて、

琵琶湖周辺のいくつかある糸のメーカー毎に違いがあるようです☆

日本の楽器の素材は、
木・竹・絹に集中しています。
竹を輪切りにすると、
繊維が穴になって見えます。
そこに音が響きます。
絹の絃は、繊細な繊維を撚り合わせることで
やはりそこに音が響き、
音に深みが出ます。

自然との「和」から生まれる音だからこそ
こんなに癒されるのでしょうか。

しかし、その伝統の技術を守り維持する技人が
減ってきてるのも残念な現実です。
需要もへっていますしね。

このコラムが少しでも
興味を持っていらっしゃる方の一助に
なれたらと思います。

2010年9月29日水曜日

⑥ お箏の形の話 

箏(琴)の形は
緩くアーチを描いていて美しい形をしております




この箏という楽器、
龍に見立てられておりまして
各部の名称も、
左の方から

竜頭、 竜角、 竜甲、 
側面は 磯  
そして右のはじが 竜尾
この様につけられております



日本に箏がもたらされたのは
奈良時代のこと。

その時には既に
「龍の象徴」として
日本にもたらされておりますので

日本に渡って来る以前
中国で、箏が「龍」に見立てられた
楽器だったのです

中国にとって「龍」とは皇帝を表す生き物
高貴で万能で、美しい。

箏は、
それだけ高貴な楽器だったということ。

素晴らしい音色が出る楽器で
神に近い物 とされていたのです

「龍笛」という楽器も、同じ理由から。
龍笛は形は似てませんけれど


箏は
琴柱を立てると龍の背中にも見えてきます♪

    箏柱(kotoji)

2010年9月22日水曜日

⑤お箏の爪のお話ー生田流ー

第2回のお話で触れました八橋検校の後、
箏(琴)だけで奏でていたものを、
生田検校が生まれ、三絃(三味線)と合奏する事が
始められます♪
すると、
三絃の奏法に合わす為に、
箏でも,
スクイ(弦を爪で引っ掛ける様にすくって音を出す)
などの技巧が必要になってきました☆

もともと箏(琴)は、
雅楽で使われている楽箏を
用いていたのが始まりですので
爪も雅楽で使われていたものと同じ、
竹を細く切り出した物を、
指にはめる為の輪を付けて使っていました
(右手の親指、人差し指、中指に爪をして奏でます)



ところが、
箏で複雑な奏法をするのに、
今までの爪では難しくなって来ました
そこで、生田検校の時から、
四角い爪が登場します


そして、
三絃と箏がどんどん合奏する様になりました♪♪
四角い爪の角を、弦に当てる様に
座り方も斜めにするよう工夫されました

生田流の他にも、
山田検校が始めました
山田流というのがございます

大きな違いとして
皆様ご存知なのは
爪の形だと思います。
右が生田流の爪、左が山田流の爪です


上の爪の部分に、↓写真の様な爪の輪をつけて使います


この爪の輪は、一つ一つ手作業で作るので
サイズも微妙に違います
自分の指にはめてみながら
ぴったりと具合のよいサイズの輪に
爪を入れ、糊をつけて、
棒を入れて押さえて固定させます。


輪は,和紙と革で作られており
最後にエナメルを塗って、
仕上げてあるのもあります。

革は、
三絃の皮を張った余りで作っているとのこと

爪の厚さも色々あって、何セットも爪を所有していて
その時、弾く琴によって音を出してみて使い分けます
コロコロと、キラキラと・・・
爪と琴の相性によって音色がちがうのですから。
デリケートですね。

2010年9月12日日曜日

④お箏の曲のお話ー秋の言の葉ー

箏曲『秋の言葉』をご紹介いたします♪
「あきのことのは」と読みます…


明治時代に作られました♪

「秋」と名がついた曲の中で
名曲とされています
虫の声を想像しながら
歌詞を堪能していただけると嬉しいです~


『秋の言葉』 

西山徳茂都(にしやまとくもいち)作曲


♪散りそむる 桐の一葉におのづから

袂涼しく朝夕は 野辺の千草におく露の

つゆの情(なさけ)を

身にしるや

たれ松虫の音をたてて、

いとどやさしき鈴虫の、

声にひかれて もののふが

歩(あゆ)ます 駒のくつわ虫

哀れはおなじ 片里の

いぶせき賤が伏家にも

つづれさせてふ きりぎりす


機織る虫の声々に 

合す拍子の遠砧

面白や 暮れゆくままの大空に

くまなき月の影清き

今宵ぞ秋の最中(もなか)とは

いにしへ人の言の葉を

今につたへて

敷島の 道の しをり と 残しける



桐の葉が落ちて秋が来たことを知りました…
から歌詞が始まり
松虫、鈴虫、くつわ虫、きりぎりす
と、よく知る虫の名前が登場いたします♪


平家物語の小督の局を訪ねた
仲国が嵯峨野の虫の声に
ひかれた想い
を背景に歌詞が連ねてあるともいわれております。
遠砧…「遠くに聞こえる砧の音」

とあります☆

砧とは洗濯を川沿いでする時に、

布を木や石の上で槌で叩く時の音のことで

箏では「チンリンチンリン」を繰り返して伴奏するのです


この曲は箏と箏で合奏するのですが、
チンリンチンリン…と砧を表す伴奏と
虫の音を表現するメロディ-とを和していて
秋の情景を感じます~


歌詞の最後は

「今宵ぞ秋の最中」

→「水の面に 照る月なみを 数ふれば

今宵ぞ 秋の最中なりける」 

という

源順(みなもとのしたごう)の歌にふれ、

「この歌を現在に至るまで伝えて

和歌の道の案内、手引きとして残しているのであるよ」

で結んでいます。

この歌は~
皆様おなじみの和菓子の名前の由来となった歌ですo(^-^)o











江戸時代、
月の宴に出た白くて丸い餅菓子を食べている時に
この和歌が話題となり
「最中」となりました(*^_^*)


2010年9月7日火曜日

③箏の絃の話ーさくらー

今回は、箏ののお話です♪


箏の弦は13本張ってあり、
弾く人の向こう側から
手前にそれぞれ

一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、

斗(と)、為(い)、巾(きん)

と呼びます。


雅楽で使われている箏と

同じものを使っておりますので

当初は雅楽の楽箏と同じ様に

仁(じん)、知(ち)、礼(れい)、義(ぎ)、

信(しん)、文(ぶん)、武(ぶ)、

翡(ひ)、蘭(らん)、商(しょう)、

斗(と)、為(い)、巾(きん)

と呼んでいたとのこと。


現在の斗、為、巾と弦を呼ぶのは

その名残なのです☆


また、古くは箏自身のことを

「仁智(じんち)」と呼んでいたこともあり、

平安末期の藤原師長(ふじわらもろなが 1138~1192)は

『仁智要録』という箏の

楽譜集を編纂しています。


例えば…
第2回のコラムで触れました

「平調子」という調子に
調弦いたしまして~
皆さまのお馴染みの
『さくら』を楽譜を見ながら弾く時には、

七七八 七七八
さくら  さくら

七八九八 七八七六
のやまも  さと-も

五四五六 五五四三
みわたす  かぎ-り

七八九八 七八七六
かすみか  くも-か

五四五六 五五四三
あさひに  にお-う

七七八 七七八
さくら  さくら

五六八七六五
はなざ-かり

と楽譜に書かれているのです。

この歌詞、↑は、

江戸時代からあった古謡の方の歌詞です☆


明治21年に、箏曲として、編詞・編曲されて、
こちらの歌詞になりました

さくら さくら

やよいの空は

見渡すかぎり

霞か雲か

匂いぞ出ずる

いざや いざや

見にゆかん


平調子は陰音階が特徴なのですが、
皆さまがご存知の曲で
それがよく表れている曲だなぁ…
と感じるのは

土井晩翠 作詞

滝廉太郎 作曲

『荒城の月』

♪春高楼の花の宴~
(はるこうろうの はなのえん~)

哀愁ただよう歌詞と
短調の曲が 胸に響きます……